INTERVIEW : Kumiko Inui
2014.12.01
乾久美子/ Kumiko Inui's INTERVIEW
-建築家になったきっかけ
子供の頃から間取りを描くことが好きでした。
私の親が週刊新潮を購読していたのですが、かつて連載されていた「マイプライバシー」という、住宅の間取りと写真のセットで掲載されているコーナーが好きで、吹き抜けがあったり、ちょっとした工夫がしてあるものを見ながら、
間取りを通して建物を考えるのはすごく面白いなあと思っていました。
実家では、私の個室はありませんでした。姉との相部屋だったのですが、小学校高学年の頃には個室がほしいと思う気持ちがでてきて、家を建て替えるプランを描いて親に見せていました。全く相手にされませんでしたが。
しかし、週刊新潮を毎週見ることでどう描いたら家を表現できるかを理解していましたから、結構リアルな図面になっていた記憶があります。スケールも間違ってないし、階段も収まっている。そんなことに熱中する子供時代でした。
中学・高校では美術部で、ずっと絵を書いていましたが、高校1年の頃にそろそろ進路を考えなくてはいけないと思った時に、小学校時代に間取りを描いていたことを思い出して、建築方面に行くのはどうかなと思った。
また、手を動かすことが大好きで、美術大学に行きたいという希望もあって、美術大学で建築が学べる東京藝術大学への進学を目指しました。
-学生時代
私は1969年生まれなんですが、学生の頃はバブル経済の後期だったこともあり、建築デザインの方向性が見えにくかった時代に建築の勉強を始めたと思っています。
妹島和世さんの世代の方々もまだデビューしておられませんでした。建築専門誌をめくっても、当時はごてごてしていたり、反対に異様にひらひらしていたり、あるいは妙に装飾的な建築が目についてしまい、建築の勉強をし始めた20歳前後の学生にとっては、建築の勉強そのものは面白いのだけれども、どうも当時の日本の建築にピンと来ないという状況でした。何をみても素直に感動できない。それが自分の問題なのか、世の中の問題なのかがよくわからなくなってしまった。
そこで、ちょっとした期間だけでも日本の外に出てみようかなと思うようになりました。そうでもしないと自分はまともなデザイナー、建築家になれないのではないかと危機感があったのです
-建築設計の楽しさ
建築設計の専門家は、絵を書くのが好きで、さらに技術者としての側面もあるので数字やデータを使って考えたり、社会科学的な思考回路で考えるのが好き。そんな方が、建築というジャンルで楽しくやっていくことができるんです。私もそういったところがあって、性にあっているなと純粋に思います。
建築を建てるというのは、大袈裟かもしれないけど、例えば住宅だとお施主さんの人生を決めてしまうような側面があります。そこまで影響力を持つものは、プロダクトとしては他になかなかない。
車は10年に1回買い替えますし、例えばパソコンであれば数年に1回は買い替えます。そうしたプロダクトや動産に対して建築は、1回建ててしまうと、住宅であればたいていは死ぬまでは使い続けるものになりますから、なかなか責任感が重い仕事だなあと思いつつ、そうした人様の人生にかかわらせていただけるところに醍醐味があると思います。
また、どんな小さな建築でも未来の一端を作っていくものにもなるので、やりがいのある仕事だなと思います。
-住宅の作品を作るとき
住宅というのは、ひとつの家族がやりたいことをあつめてパッケージ化するようなところがあります。
一方で家って周りの人から見られる物だし、まちをつくり上げるひとつのピースでもあるので、ひとつの家族のわがままだけでつくるのもよくないというものです。
洋服も一緒かもしれません。自分が楽しむ為に好きなものだけ着ることは、本当の悦びにはつながりません。
洋服は、TPOがなってないとまわりが戸惑いますし、それなりのマナーと節度を持ちながら、ルールの中で工夫された逸脱を楽しむべきものです。洋服に関しては、日本では結構マナーというのが共有化されていて、かなり洗練された装いのゲームを楽しんでいるように感じますが、家は一生に1回しか建てられないので、マナーを磨くタイミングがないのかもしれません。洋服は若いころにいろいろと失敗しながら学んで行くことができるけど、そうした失敗の体験がしにくいのが建築です。
家は、そうしたマナーを知らないまま身勝手に建てておしまいということになりがちで、それは良くないなと思っています。お施主さんの希望を叶えつつも、まわりのまちの風景や状況をみながら、どういうマナーのまもり方がエレガントなのかをお施主さんと一緒に考えたいと思っています。
-現在の活動
住宅だけでなく、被災地復興関連の事業にも参加させていただいています。主に小学校や中学校などの教育施設です。
また、店舗のファサードなどの設計もやっています。
-自由なステージで作品を作るとしたら
お題を与えられて答えるのが建築家の仕事ですが、外国の建築雑誌をみていると、草原のような環境にポーンと建っていたりするケースがありますが、日本人で仕事をしている限り、何も無い平原に建物を建てるということはあまりないような感じです。うらやましいと思う反面、そうした環境に対するリアリティがないので、もし、依頼されたら困ってしまうかもしれません。別荘も、鬱蒼とした森の中にあるようなもののほうがしっくりしますね。
乾久美子/ Kumiko Inui's Profile
1969 大阪府生まれ
1992 東京藝術大学美術学部建築科卒業
1996 イエール大学大学院建築学部修了
1996〜2000 青木淳建築計画事務所勤務
2000 乾久美子建築設計事務所設立
2000〜2001 東京藝術大学美術学部建築科常勤助手
2006〜2008 昭和女子大学非常勤講師
2008〜2011 東京大学大学院非常勤講師
2009 The University of British Colimbia Scool of Architecture非常勤講師
2009〜2010 京都工芸繊維大学非常勤講師
2009〜2011 東京藝術大学美術学部非常勤講師
2009〜2011 早稲田大学理工学部非常勤講師
2010 The Oslo Scool of Architecture and Dsign非常勤講師
2011〜 東京藝術大学美術学部建築科准教授
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